【 地盤沈下・耐震補強・減築をリフォームで解決! 】
【地盤沈下】【耐震補強】【減築】どの文字を見ても「技術的に難しそう」「新築したほうが早いんじゃないの?」そんな先入観を持ちそうな住宅リフォームをご紹介します。昭和63年に建設され、約30年が経過した木造2階建て住宅。法定積雪量180cmの多雪地、青森市に建っています。
お客様から問題点をお聞きすると「過去の道路工事に伴い地盤沈下している。また屋根雪が、雪庇の張り出す道路側に落ちるので心配だ。近年は地震も多いので、安心して住めるよう補強したい。合わせて水廻りもリニューアルしたい」 とのことでした。
まずは現地を拝見し、どの程度の工事内容になるか、実際かかる費用は総額いくらぐらいかをご提示。納得いただいたうえで設計契約を交わし、調査を開始しました。設計図は無く、現地調査を基に図面を書いていきます。
外壁や内装はメンテナンスされてきれいに使われています。屋根も手入れされていましたが、約30年経過しているので葺き替えることに。
天井裏を調査し、筋かいの位置や主要な柱・梁、断熱材の確認を行いました。当時としては一般的な建て方であり、耐震壁もそれなりに入っています。
床下の調査では、基礎の位置や状態を確認。乾燥状況は良好で、防湿がされ乾燥砂が敷かれています。ただ、断熱材はグラスウールで湿気を含み床下から落ちかけている部分もあり、こちらはしっかり改修したいところです。
さて、問題なのが地盤沈下。1階の廊下で調査すると、3mの距離で10cm下がっています。勾配は3%以上、廊下を歩くと「トトトトッ」とつんのめるような感じ。この状態は20年以上前に発生し、その後は沈下もなく安定しましたが、長い間この状態で暮らしてきたそうです。
柱の傾斜もかなりもので、測ってみると天井から床までの2.4mの高さで約3cmほど傾いていました。窓サッシもきちんと閉まりません。床・壁・サッシすべてが歪んで水平・垂直の部分がなく、このままではリフォーム工事はかなり困難です。
調査内容を基に、平面図・立面図・仕上げ表といった基本図面を作成し、耐震壁となる筋かいの位置もプロット。図面を前にして所内で意見を交わしたり、お客様と話しているうちに、今回のリフォームのポイントが見えてきました。
この5つの手法でお客様のご要望をかなえていきます。
手法01【土台上げですべてを水平に戻す】
「土台上げ」を詳しく解説します。人生で、自分の家の土台上げに遭遇する人は、めったにいません。気になる費用はどのくらい掛かるのでしょうか?
1階の床面積が約30坪の今回のケースで、
・土台をジャッキアップするに約20万円
・基礎の補強、アンカーボルト追加、モルタル充填で概ね15万円
合計約35万円が「土台上げ」に要した費用です。思ったほど高くないです。なお、土台をジャッキアップするのに要した時間はたったの半日でした。
「土台上げ」の手順を時系列でご紹介します。まずは内部の解体を開始。
床が無くなり、基礎と土台が露出したところで、お客様・設計事務所・建設会社の三者で協議を持ちました。「土台上げをすることで建物全体のゆがみも直るし、最終的な仕上がりがきれい」との方針を再確認し、いよいよ土台上げに着手。
現場に、油圧ジャッキが登場しました。
複数のジャッキを使って、グイグイと土台を持ち上げていきます。早いです!
一番基礎が沈下している部分では、15cmも沈下していました。ジャッキで持ち上げた土台は、ひとまず束を差し込み支えます。
補強の鉄筋を入れ、持ち上げた土台と基礎の間にモルタルを充填していきます。
モルタル充填が完了した状況。きれいに仕上がりました。
ジャッキで土台を持ち上げた状態の1階の廊下。左側の基礎と土台の間には隙間が空き、右側の土台に留められた束は浮き上がって宙吊りになっています。
持ち上げた土台と基礎の間に充填したモルタルが固まって、土台上げは完了です。
こちらの帯状の部材による補強は、柱が土台から抜けないように行った繊維補強です。アンカーボルトが少ないと判断した箇所に追加しました。大地震の際は、柱が土台から抜けて1階がつぶれ建物が倒壊することが多く、このように柱を土台・基礎に引き付けておくことは重要です。
家の傾きにより、閉まりきらず開いていたサッシの隙間は…
土台上げで家が水平に戻ると、無事にパチリと閉まりました!
土台上げで感じたことは「木造の改修・リフォームは【戻したり】【追加したり】【減らしたり】自由にできるものだな」ということです。これがRC造や鉄骨造だとそうはいきません。木造のアバウトな感じが、建築の寿命を延ばすことにつながっていくことを実感しました。
手法02【耐震診断+耐震補強】
次に【耐震診断】【耐震補強計画】を解説します。古い実家をお持ちで悩んでいる方、空き家をどうしようか途方に暮れている方、必見です。まず「耐震診断」では現地を調査して得た情報に基づいて、耐震診断計算をしていきます。地味な作業ですが、一つ一つの積み上げにより精度の高い結果が得られます。
基礎の形状や深さは、スコップで掘削して確認します。
センサーを用いて、基礎の鉄筋位置を確認します。
天井裏に登って、構造・耐震壁・接合部の調査をします。
現地調査結果を基に、耐震診断プログラムを用いて耐震診断評価を行います。結果は
1階は『倒壊する可能性が高い』評点 ≒ 0.3
2階は『倒壊する可能性がある』評点 ≒ 0.7
となりました。評点が1.0~1.5で『一応倒壊しない』、1.5以上あれば『倒壊しない』ですので、1階が倒壊する危険が大きいことが一目瞭然です。
この耐震診断評価を使って、次は耐震補強計画に入ります。筋かいを追加したり、柱が抜けないように金物補強することで評点を上げていきます。
ピンクの記号が新たに追加する耐震壁(=筋かい)です。かなりの量の耐震壁を追加しています。これによって耐震性は大きく向上しました。
1階は『一応倒壊しない』評点 ≒ 1.2
2階は『一応倒壊しない』評点 ≒ 1.3
このレベルまで改善できれば、青森市内の木造2階建て住宅としては「安心」です。
木造建築の良さは、[1]増築・減築しやすい [2]補強しやすい [3]大工さんが加工しやすい 事だといえます。手法01でも述べたように「追加したり、省いたり、丈夫にしたり」と色々なことが、木材を使い大工さんの手で出来ます。
耐震リフォームには、確かに大きな金額がかかります。新築の1/2の金額がかかることもあります。しかしながら、1/2の金額でさらに20年以上住み続けることが出来るのであれば、有効な手段ではないでしょうか。古い実家をお持ちで悩んでいる方、空き家をどうしようか途方に暮れている方に、木造住宅にはまだまだ可能性があることをお伝えしたいです。
手法03【減築で庭とリビングをつなぐ】
減築はどのようなケースで効果的かを見ていきましょう。
[1] 床面積を減ずることで、地震時の安全性を高める
[2] 部屋を減らしたり統合することで、開放的な間取りに変える
[3] 建物外周部のスペースを広くすることで、庭を広げたり堆雪スペースを確保できる
[4] 暖房面積が減るので、省エネになる
今回、1階については[1]~[4]すべてに該当する減築を行いました。およそ9帖分の減築です。
リフォーム前のリビング。隣の部屋はあまり使われていない続き間の和室になっています。そしてこちらのお客様は庭が大好きなのですが、庭はリビングから見えませんでした。
そこで和室の一部を減築し、和室の残りとリビングを一体化して、広々としたリビングに変身させます。
和室を減築して、広く明るくなったリビングです。新たに庭を眺められる大きな窓を取り付けて、庭をより身近に感じられるようになりました。
庭も減築のおかげで広くなり、日当たりも良くなって更に充実。 庭とリビングがつながることで楽しみ方が増えました。夏にはお孫さんがビニールプールで水遊びして、ますます賑やかです。
手法04【減築で2階の屋根を後退させる】
手法03での1階減築に引き続き、2階も減築しています。
減築前の建物では、2階の屋根が道路ぎりぎりまで出ているために、雪庇が道路側に張り出し危険でした。
2階を減築、具体的には道路側から2階の屋根を1.82m後退させることで、雪庇の危険を解消し、かつ地震時の安全性も向上させています。
減築後の写真です。雪庇が張り出しても、1階の屋根で受けることができるので、道路の歩行者や車に迷惑をかけることもありません。
このように【減築】を使いこなすことで、多くの悩みを解決することが出来ます。大切なのは着眼点。多角的に建物を観察することで、突破口が見えてきます。「家が広すぎで持て余している」「間取りを何とかしたいが、どこから手を付けていいかわからない」等々、特に大きな家をお持ちの場合、このような悩みを抱えている方をお見受けします。私たち一級建築士と一緒に考えてみませんか?
手法05【間取りごと水廻りをとりかえる】
今回のリフォームでは1階の床を撤去したので、床下での給排水配管の移設を伴う大幅な水廻りの変更も行いました。今後の生活を考えて、水廻り空間全般の狭さを解消するために、間取りごと取り替える解決策をとります。
before : 階段下にあった1階のトイレ。限られた階段下のスペースを利用しているため狭く、廊下との間の床には大きな段差もありました。
after : 元は洗面所だった場所を新しくトイレに変更。ドアは引き戸になり、床もバリアフリー仕様で、ゆったりと使うことができます。
before : 以前の洗面所は狭いうえにボイラーも置かれており、洗濯機は隣の台所に置いて廊下から使っていました。上の写真の左側が洗面所、右側が台所です。どちらもドアの下枠部分に段差もあります。
after : 和室の収納だった部分を利用して、新しくお風呂と洗面所を作りました。洗面所には収納量のある大きな洗面化粧台と、洗濯機スペースを設置。また洗面、お風呂とも引き戸+フラット床のバリアフリー仕様に。
before : リフォーム前の調査で、3mの距離で10cmの高低差があった廊下。地盤沈下が原因でした。階段の踏板も傾いていて、階段の昇り降りには不安を感じていました。
after : リフォーム後、廊下も階段も水平に。傾斜がなくなり「安心・安全」です。階段下のトイレは収納にして物がしまえるようになり、すっきりと暮らせるように。
before : こちらは2階です。押し入れで背中合わせに並んでいる、2つの子供部屋。
after : 押し入れを半分ずつ撤去して、ひと繋がりの部屋にしました。ご夫妻がそれぞれの空間を使います。お互いの気配を感じながらも、自分の時間を過ごすことができます。
after : トイレは1階だけだったのですが、収納になっていた部分を利用して2階にもトイレを追加。寝室のすぐそばなので夜も安心です。
before : 以前のキッチンは、リビングに隣接していながらリビングからは見えず、少し距離を感じていました。4帖半のスペースに置かれたL字型のシステムキッチンも手狭な印象です。
after : システムキッチンをI型にし向きも変えて、お料理しながらリビングや庭が見えるようにしました。動線を整理して使い勝手もアップ。
after : お風呂を移設して空いたスペースをキッチンに取り込んで、奥のほうを広げています。家電を並べたり、分別ごみや食品ストックを置く余裕が生まれました。
after : 東と南、2方向の大きな窓から光が入るダイニング。テーブルで食事ができるようになり、庭にもすぐ出られます。視線が庭まで伸びていくので、空間が広く感じられる様になりました。
設計事務所・建設会社が力を合わせて取り組んだ今回のリフォーム。【地盤沈下】した住宅を【減築】しながら【耐震補強】。さらに水廻りや間取り、そして庭までも、数々の問題点を解消することができました。